院長・副院長の『素朴な疑問と意見』コラム Dec.23.2004
Question4.テレビをはじめあちこちで血液サラサラとかドロドロという言い方を耳にします。医療機関での
説明で聞かれた患者さんも少なくないのですが私は異議を唱えたい。
Opinion : 血液は血漿と血球に分けられ、割合はほぼ50%づつです。血漿は水分、血球は赤血球、白血球、
血小板に分けられますが放置すると沈殿し血餅と呼ばれる事もあります。何となくお解りかと思い
ますが血液は僅かに粘稠性のある液体です。これをサラサラにするような薬や食べ物があるのだ
ろうか。そんな物はありません。赤血球やその他の細胞成分を破壊するような物であればサラサラは
達成できるかも知れませんが命はありません。血液は通常心血管内にある時は固まろうと働く事は
ありませんが血管が破綻して出血すると血小板が中心になって止血機能を発揮します。更にフィブリン
という物質と一緒になって凝固を行うのです。血管の一番内側の内膜が動脈硬化で荒れていたり、
流れが渦を巻くような状態の時も血小板が状況を誤解して血液の固まり(血栓)を作る事があり、
このような可能性の高い患者さんには抗血小板薬を処方する事になります。これは血小板の機能を
抑えるのが目的であって、これによって血液がサラサラになるなんて事はあり得ないわけです。
要するに、血液をサラサラにしたければしっかり水分を取ることです。水彩絵の具を思い浮かべて
下さい。水を少しづつ加えていくと次第にサラサラになってきます。これと同じです。血液中の水分が
少なくなった脱水状態がドロドロの状態というわけです。
患者さんに解りやすくという意味も理解できますが、薬の作用・効能効果は誤解を生むような説明
ではなく科学的にキチンと説明すべきだと思います。患者さんの理解能力は決して低くはありません。
参考までに日常処方されている薬剤を以下に記載しておきます。
抗血小板薬(バイアスピリン、バッファリン81、パナルジン)、抗凝固薬(ワーファリン)
Question5.健康食品は精神安定剤?
Opinion :世の中、健康食品や各種サプリメントのCMで溢れかえっています。結構な値段のようですが売れ
行きは絶好調と聞きます。健康志向が異常なほど強い日本人(だけでもないかな?)の関心が高い
のは当然かも知れません。こういったものを如何に活用していくか、しっかりと検討した上で使用を
決めることです。日常バランスが取れた生活が出来ていればこのようなものを摂取する必要はない
でしょう。しかし血液検査などをしてみると櫛の歯が欠けるように不足部分を見ることが結構あります。
その辺のこともカバーする手段としては悪くないと思いますが、正直なところ私はお金を出してまで
購入する気にはなれません。こういった商品は日本人にとって精神安定剤のような気がしています。
でも、呉々も怪しげな物には手を出さないようにしてください。命に関わった事件もありますしね。
栄養剤の注射をして欲しい、と言われることがしばしばありますが、いかにも日本的な発想だなあと
思います。国立健康・栄養研究所が「健康食品」の安全性・有効性データベースを検索できるホーム
ページを開設しています。以下のURLを参照してみて下さい。
http://hfnet.nih.go.jp/
Question6.薬の飲み合わせを知っておきましょう
Opinion :現在、我が国で医師によって治療に用いられている薬剤は約12,400種類あります。
その内訳は内用(内服)薬6,877種、注射薬3,478種、外用(塗布・貼付)薬2,030種、その他と
なっています。薬と薬の飲み合わせについては医師や薬剤師がチェックしますが、決して良い味とは
言えない薬を飲み合わせの知識を知らずにお茶やジュース、牛乳などで服用している患者さんは
案外多いのではないでしょうか。服薬と飲食物に関する注意は患者さんの側でも知っておくことが
大切です。
一番良い薬の飲み方は白湯で飲むこと
細かく述べると一冊本が出来るくらいですので、ここではポピュラーな薬剤と気を付けなければ
ならない飲食物の主な組み合わせを述べることにします。ひとつ理解をしていただきたいのは同じ
目的の薬でもそれぞれちがう構造と組織を持つものが多種ありますから、この組み合わせは絶対と
決めつけられるものではありません。また、常に配慮しなければならない個人差の問題もあります。
しかし、かなりの部分で該当しますので、ほぼ絶対的なものと受け取って注意を払うことが安全に
繋がると思います。
◆ 血圧降下剤 と グレープフルーツ
⇒ カルシウム拮抗剤という部類の血圧降下剤は効果が増強されます。ジュースも同じく
気を付けなければなりません。前後3時間くらい空ければ大丈夫と言われていますので
グレープフルーツ好きの方はこの点ご用心!&ご安心です。
◆ 鉄剤 と お茶(日本茶、紅茶)、コーヒー
⇒ 鉄はお茶やコーヒーの渋みの成分であるタンニンと結びついて酸化鉄に変化しますが、そう
なると腸管からは吸収できなくなってしまいます。せっかく服用した鉄剤もそのまま便と共に
体外に排出されてしまうわけです。鉄剤服用の前後1時間はお茶やコーヒーは控えた方がよい
のです。ところでウーロン茶はどうなのでしょうか。ウーロン茶の製法は多様でタンニンの多い
ものから殆ど含まれていないものまであるようです。とりあえず避けた方が無難なようですね。
◆骨粗鬆の薬や抗生物質 と 牛乳
⇒ カルシウムの良質な供給源である牛乳が骨粗鬆の薬と相性が・・・、エェーッ?とビックリですが
エチドロン酸(薬名:ダイドロネル)はカルシウムと結合して成分変化を起こし、吸収率がガタ落ちして
しまうのです。この薬の処方を受けている時だけは注意が必要です。ところで実はこちらの方が以前
から言われているのですが、抗生物質の一部にはカルシウムと反応しての吸収率が不安定になり
効果が得られないことがあります。急性疾患に使うことが多い抗生物質が効かないと速やかに治ら
ないこともありますので知っておくべきです。
◆抗凝固剤 と 納豆、クロレラ
⇒ 抗凝固剤は、血液が流れる部分に人工の物質を移植したり置換したりするような手術を施行した
後に継続的に処方されるものです。血液は異物に触れると凝固する性質がありますが人工弁や
人工血管などを用いた手術後に血小板の働きを抑えるなど血栓を作らせないように抗凝固薬を使
うのです。納豆やクロレラに含まれるビタミンKなどは抗凝固薬を無効にしてしまいますので血栓
が出来やすくなり脳血栓症などの合併症を引き起こす可能性が急増します。手術を受けた患者さ
んは主治医から厳重に言い渡されると思いますが内科的にあまり劇的でない治療を受けられた方
は印象が薄れてしまうこともあろうかと思います。健康によいと思って摂取したことが思わぬ事態を
招きかねないので注意が必要ですね。
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